
タンポポ(西洋タンポポ)
Taraxacum officinale
主な成分
- Taraxacin
- Taraxacerin
- Taraxasterol
- Inulin
- Taraxacosides
- Sesquiterpene lactones
- Chlorogenic acid
- Chicoric acid
- Caffeic acid
- Luteolin-7-glucoside
- Quercetin glucosides
- Beta-sitosterol
伝統的な利用
- 消化促進
- 利胆作用
- 軽度の利尿
- ビタミン・ミネラル補給

フランス人はタンポポを pissenlit と呼ぶ。おねしょという意味だ。フランス語としてはかなりストレートな命名で、植物の利尿作用を一言で表している。英語名 dandelion は dent de lion(ライオンの歯)——葉の形から来ている。日本語の「タンポポ」の由来は複数の説があって定まっていないが、鼓の音という説が一番よく聞かれる。三つの文化が三つの違う特徴に着目した。フランス人は尿意に正直だった。
植物としての姿
Taraxacum officinale。ロゼット状に広がる深く切れ込んだ葉、中空の茎の先に黄色い複合頭花、綿毛になる果実。見間違えようのない植物だ。根は太く肉質で、地中深く伸びる。主根を根こそぎ抜くのは思っているより難しく、少しでも残ると再生する。これがタンポポが「雑草」として成功した理由のひとつだ。
セイヨウタンポポ(Taraxacum officinale)は欧州原産で、現在は世界中の温帯に帰化している。日本在来のニホンタンポポ(Taraxacum japonicum など複数種)も存在するが、都市部や農村部ではセイヨウタンポポに置き換わりつつある。見分け方は総苞片——在来種は外側の総苞片が反り返らないが、セイヨウタンポポは反り返る。地味だが確実な違いだ。
カリウムと「おねしょ」の事情
タンポポの葉100gあたりのカリウム含量は約397mg。バナナは358mg。タンポポの葉の方が多い。
これが重要なのは、利尿剤の文脈での話だ。医薬品の利尿剤(フロセミドなど)は尿量を増やすが、同時にカリウムを排出する。カリウム欠乏は筋力低下、心拍不整、倦怠感を引き起こす。だから医薬品利尿剤を服用する患者は別途カリウム補充薬を処方されることが多い。
タンポポの葉は利尿作用を持ちながら、同時に失うカリウムを補充する。医薬品にはできない組み合わせだ。これはタンポポが「より弱い」ということではなく、植物が全体として機能しているということだ。ドイツの薬事委員会(Commission E)はタンポポの葉をむくみの補助療法として認可している。
根の働き——苦みと胆汁
葉が利尿に使われるなら、根は消化系に向けられる。根に含まれるタラキサシン(taraxacin)とタラキサセリン(taraxacerin)は苦みのある化合物で、胃酸と胆汁の分泌を刺激する。脂肪性の食事の後に根のお茶を飲む習慣が欧州にある理由はここにある。苦みが消化プロセスの始動を助けるという考え方は、消化系ハーブ医学の基本的な考え方だ。
根のもうひとつの成分はイヌリン——プレバイオティクス食物繊維で、腸内細菌の餌になる。含量は季節によって変動し、秋に採取した根では最大40〜45%に達することがある。春の根はイヌリン含量が低い代わりに、他の活性成分が高い。収穫時期が使用目的と関係している珍しい例だ。
秋に採取した根をローストしてコーヒー代替品にする用法も欧州では伝統的で、現在も市販されている。カフェインを含まない。風味はコーヒーに似て土のような深みがある。コーヒーほど強くないが、「タンポポコーヒー」として十分に楽しめる飲み物だ。
化学成分
| 成分 | 部位 | 備考 |
|---|---|---|
| タラキサシン | 根・葉 | 苦みのセスキテルペン、胆汁分泌刺激 |
| タラキサセリン | 根・葉 | 苦みのセスキテルペン、消化促進 |
| イヌリン | 根 | プレバイオティクス食物繊維(〜45%) |
| フルクトオリゴ糖 | 根 | 腸内細菌叢サポート |
| フラボノイド | 葉・花 | ルテオリン、ケンフェロール |
| βカロテン | 葉 | 可食部として高含量 |
| カリウム | 葉 | 約397mg/100g(バナナより多い) |
| ビタミンC | 葉 | 生の葉で有効 |
| タラキサステロール | 根 | フィトステロール |
実際の使い方
葉の使用: 春の若い葉はサラダに使える。苦みがあるので、ルッコラやラディッキオが好きな人なら抵抗なく食べられる。軽い苦みが苦手なら軽く茹でると和らぐ。スムージーに少量加える方法もある。
根の使用: 乾燥した根を煎じてお茶にする。1カップ(240ml)の水に根5gを10〜15分煮出す。消化サポートを目的とする場合は食前または食後に飲む。ローストした根はコーヒー代替として使用可能。
チンキ剤: 葉または根、あるいは全草からのチンキ剤が市販されている。
禁忌・注意事項: キク科アレルギー(カモミール、コーン、ラグウィードなど)のある人は交差反応の可能性。胆道疾患(胆石、胆管閉塞)がある場合は胆汁分泌促進作用から禁忌。利尿薬との重複使用は電解質バランスへの影響から要注意。大量服用でまれに消化不良。
自分で育てられますか?
育てられるが、庭では育てる前にすでに育っていることが多い。タンポポは積極的に栽培管理が必要な植物ではなく、一度定着すると定期的な収穫の方が管理になる。
食用目的で栽培するなら、遮光布をかけて葉の苦みを和らげる(軟白栽培)方法がある。ベルギーやフランスでは同様の方法で軟白した葉を高級食材として販売している。根を目的とする場合は、深い土壌に直播きして秋に収穫。主根が30cm以上になることもある。
採取する場合は農薬・除草剤の散布がない場所を選ぶこと。公園や道路脇は除草剤使用のリスクが高い。自宅の庭か、管理状況が確認できる場所から採取すること。
日本でのタンポポ
タンポポは日本の文化にしっかりと組み込まれている。俳句では春の季語として使われ、民謡にも登場し、子どもが綿毛を吹く遊びは世代を超えて続いている。タンポポの綿毛を吹いて残った数で天気を占う習慣(いくつ残ったか数える遊び)もある。植物として親しみ深いが、薬用としての体系的な利用は日本ではあまり発達していない。
漢方では蒲公英(ほこうえい、中国語読みでプーゴンイン)という生薬名があり、主に清熱解毒(炎症・感染への対応)に使われる。乳腺炎への外用など、中医学的な利用は中国・韓国の方が日本より体系化されている。日本でも中医学系の漢方処方では使われることがある。
現代日本では主に健康食品・サプリメントとして流通している。タンポポコーヒー(根のロースト飲料)は妊婦や授乳中のコーヒー代替として人気があり、専門店やオーガニック系食料品店で入手可能。生の葉は一部スーパーマーケットや農産物直売所でも季節限定で見られるようになっている。
セイヨウタンポポによるニホンタンポポの生態学的置き換えは、植物学者が継続的に記録している問題でもある。在来種は日当たりが悪い環境や撹乱の少ない場所に残っており、外総苞片の形が両者の見分け方になる。
よくある質問
Q. 庭のタンポポを食べても安全か? 農薬・除草剤を使っていない庭なら食べられる。若い春の葉がもっとも柔らかくて食べやすい。花も食べられる(サラダに加えたりパンケーキに入れたり)。根は苦みが強いので食用というよりお茶向き。ただし採取場所の管理状況は必ず確認すること。
Q. キク科アレルギーがあるが大丈夫か? タンポポはキク科(Asteraceae)に属するので、カモミール、エキナセア、ラグウィードなどにアレルギーがある人は交差反応の可能性がある。特に生のタンポポの接触皮膚炎が報告されている。服用・使用前にかかりつけ医に確認することを推奨する。
Q. タンポポコーヒーはどこで買えるか? 国内では自然食品店、オーガニック系食品店、ネット通販で「タンポポコーヒー」または「ダンディライオンコーヒー」として入手可能。ドイツ産やカナダ産のものが多い。粉末タイプとティーバッグタイプがある。
Q. 利尿作用はどの程度か? 医薬品のフロセミドほど強力ではない。軽〜中程度の利尿作用で、一時的なむくみや体液貯留の補助として使われる。継続的または重篤なむくみは医療機関での診断が必要で、タンポポで対処する問題ではない。
植物学的な詳細
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 学名 | Taraxacum officinale F.H.Wigg. |
| 科名 | キク科(Asteraceae) |
| 原産地 | ヨーロッパ・西アジア(現在は世界中に帰化) |
| 草丈 | 5〜40cm |
| 葉 | 深く不規則に切れ込んだロゼット状 |
| 花 | 黄色、複合頭花(舌状花のみ) |
| 果実 | 痩果、長い花柄の先に綿毛(冠毛) |
| 根 | 太い主根、肉質、乳汁を含む |
| 利用部位 | 葉(食用・利尿)、根(消化・コーヒー代替)、花(食用) |
| 収穫時期 | 葉:春〜初夏。根:秋(イヌリン最大)または春 |
含有化合物一覧
| 化合物 | 種類 | 主な作用 |
|---|---|---|
| タラキサシン | セスキテルペン(苦み) | 胆汁・胃酸分泌刺激 |
| タラキサセリン | セスキテルペン(苦み) | 消化促進 |
| イヌリン | フルクタン(食物繊維) | プレバイオティクス |
| フルクトオリゴ糖 | オリゴ糖 | 腸内細菌叢サポート |
| ルテオリン | フラボノイド | 抗炎症、抗酸化 |
| ケンフェロール | フラボノイド | 抗酸化 |
| タラキサステロール | フィトステロール | 抗炎症(研究中) |
| βカロテン | カロテノイド | 抗酸化、ビタミンA前駆体 |
| カリウム | ミネラル | 電解質、利尿時の補充 |
| タラキサコシド | フェノール酸配糖体 | 利胆補助 |
関連するハーブ
参考文献
- Schütz K, Carle R, Schieber A. Taraxacum—A review on its phytochemical and pharmacological profile. J Ethnopharmacol. 2006;107(3):313-323.
- Blumenthal M, ed. The Complete German Commission E Monographs. Austin: American Botanical Council; 1998.
- Clare BA, Conroy RS, Spelman K. The diuretic effect in human subjects of an extract of Taraxacum officinale folium over a single day. J Altern Complement Med. 2009;15(8):929-934.
- Vitamins A, C, and K, and potassium content. USDA FoodData Central. 2023.
- Hoffman D. Medical Herbalism. Rochester: Healing Arts Press; 2003.
- Chevallier A. Encyclopedia of Herbal Medicine. London: Dorling Kindersley; 2016.
- 難波恒雄. 『原色和漢薬図鑑』. 大阪: 保育社; 1980.